今回の上限金利引き下げには一定の効果があった

伝統的な経済学においては、金利規制のない市場では需要と供給の2つの曲線の交点で金利が決まるというのが基本的な考え方です。サラ金市場では、サラ金の利用者は返済能力におけるリスクは高いけれども、高い金利を払って借りてくれる収益性の高いユーザーだといえます。もしここに自由競争によって決まるより低い水準で上限金利規制が行われると、こうした層に貸付けができなくなります。多くの経済学者が、過度な上限金利規制は市場に弊害をもたらすと主張するのはこのためです。

一方で経済学者は、上限金利規制が正当化される場合についても考えていて、その一つが貸し手の数が極端に少ない独占的な市場です。貸し手が1人しかいない完全独占市場では、貸し手は高めの金利で少額を貸し付ける方が、低めの金利でたくさんかすより多くの利潤が得られます。これは、多く仮想とすれば低めの金利を提示せざるを得なくなるからです。ですからこのような市場では、上限金利規制によって高金利を抑制することが正当化されることになりますが、消費者金融市場は明らかに独占市場ではなく、この考え方は成立しません。

つい遊んでしまう人たちに対する法の効果

上限金利規制を正当化するもう一つの考え方が、行動経済学的なアプローチによるものです。行動経済学の分野には「双曲割引」という考え方があり、これは簡単に言うと「人は遠い将来のことに比べて、目先の利益の方を重視する傾向がある」というものです。長い目でみればキチンと計画は立てられるのに、いざ目の前に楽しいことがあるとそちらを優先してちまいがちになる人のことを、行動経済学の世界では「双曲割引の傾向が高い人」といいます。

伝統的な経済学に則れば、サラ金の利用者は「信用リスクが高いために高い金利でなければ借りられない人たち」ということになりますが、行動経済学の観点からすれば、そこにはもっと低い金利で借りられる可能性があるにもかかわらず、双曲割引の傾向が強いため目先の楽しみを我慢することができず「金利が高くてもすぐにもお金を手に入れることを優先しがちな人たち」も含まれているはずや。こうした人たちは、細かい経済計算や他の借入れ機械を探すという「現在」の心理的・時間的コストを大きく評価します。その結果、金利計算をキチンとしたり、もっと安い金利で貸してくれる業者を検索したりするよりも、目の前にある高金利の業者でお金を借りてしまうのです。つまり「いま」の手間を省いて、高金利の支払いという「将来」の高いコストを選んでしまう傾向があります。したがって、こうした人たちを安易な借入れから遠ざけることができたという点で、今回の上限金利規制には一定の経済的効果があったと考えることができますわ。

多重債務者と最低賃金労働者の共通項

サラ金の利用者から双曲割引の傾向の高い人を抽出することは、決して容易ではありません。しかし、年間の平均利回りが30%前後もあるようなビジネスが他にはほとんど見当たらないことを考えると、年利29.2%という貸出金利は高いと認識されるのが通常であり、それを承知でサラ金を利用する人たちにはかなり強い双曲割引の傾向があります。また双曲性をコントロールしにくい傾向があると考えてもいいでしょう。

労働経済学の観点から、最低賃金と上限金利の問題は表裏一体の関係にあるのではないかという仮説を立てることができます。ワーキングプアと呼ばれる人たちに関するルポなどを読むと、もっとじっくり職を探せば必ずしも最低賃金に甘んじて働かなくても済むのではないかと思われる人たちが少なくありません。どんなに懸命に職探しをしても最低賃金の仕事しか得られないという人とは異なり、求職活動において高い曲線割引傾向を示す人たちは、いま自分がやりたいことのために今日もらえる1万円をまず手に入れることを優先しがちで、時間を掛けて給料のいい仕事を探すより、手っ取り早く見つかった仕事で手を打ってしまうところがあります。

こうした人たちが増えた背景には、登録制の日雇い派遣という手軽な制度ができたことがあります。人材派遣会社というものがなければ、求職者は自分で情報を集めて調べるしか方法はありません。社会が便利になるのは良いことですが、その反面、易きに流れやすいという人間の弱みをさらけ出すところもあり、いざというときのリスクに備えておくことのできない人たちを増やす恐れがあります。