見えなかったお客の全体像

1970年代半ば以降の時期は、それまで順調な拡大を続けてきた消費者金融業界にとって、さまざまな意味で波乱と試練のときとなった。

日本の就業人口6000万人のうちのおよそ25%、約1400万人の方々に利用されている大きなマーケットであるにもかかわらず、残念ながら当業界への理解は思うように得られていないのが実情だ。今回の法改正の経緯を振り返ってみても、われわれが行っている「無担保・無保証」の融資ビジネスをきちんと理解いただけていない現実を痛感したというのが正直な思いだ。そもそも、日本人というのは、金銭貸借を恥ずべき行為ととらえる傾向が強いため、消費者金融を利用されている方は借りた事実をなるべく隠そうとする。そのため利用者の実態がなかなか表に出てこないという側面がある。

今回の法改正の論点が、融資を受けられた方の約10%といわれる返済困難な状況に陥ったいわゆる多重債務者にばかりに目が向けられ、健全にご利用いただいているお客への視点に乏しかったことを非常に残念に思う。

先ほども申しましたように、消費者金融を普通に利用されているお客の声というものが表に出ることはほとんどないが、実際にお客さまと接している現場では、「ありがとう」「助かったよ」というお声をいただいていることも事実だ。今後は、きちんとご利用いただいているお客さまや残念ながら返済の滞ってしまったお客を含め、利用者の全体像、実態をデータ化し、公表していくことが課題だと思っている。それがわれわれのビジネスの存在意義を示すことにもなるはずだ。

もちろん、これまでも業界として定期的に『消費者金融白書』などを刊行してきたが、業界側が出す情報ということで、なかなか世間には受け入れてもらえない実態がありました。今回の法改正の経緯を振り返っても、われわれ業界が発信する情報は、企業側の都合の良い情報にすぎないだろうと受け取られ、とくにマスコミなどには拒否反応があったように思う。

その意味でも今後大きな役割を担うのが、法改正を受け内閣総理大臣の認可法人として2007年12月に設立された「日本貸金業協会」だ。同協会による公益理事と、会員理事、常任理事で構成される組織ですから、業界外の方々のご意見も仰ぎながら、消費者金融、クレジット、信販業界が共に足並みを揃えて、貸金業のより一層の健全な発展を目指して取り組んでいけるものと大きく期待している。

理解を得るには何をなすべきか

もちろん、そのためには、われわれ業界も変わらなければならない。振り返れば2000年の商エローン問題以降、業界のコンプライアンスに対する姿勢が問われ、02年頃からの景気後退とともに増加した自己破産の原因が、貸金業者側にあるという見方を世間一般に定着させてしまった。こうした流れのなかで、今回、多重債務者を生まないためには貸金業者の規制強化が必要だという空気をつくってしまったことはとても残念に思う。このような経緯も反省点とし、今後の教訓にしなければならない。そのために業界は何をしなければならないのだろうか。

まずは、新協会の自主規制ルールを業界全体で遵守し、業界自ら業務の適正化を図り、コンプライアンス経営を実践していくことが求められるだろう。もちろん、各個社で社内ルールを遵守・徹底させることは言うまでもない。そのうえで健全な消費者金融業界であることを実態とともに世間に示していくことが必要だ。その姿勢、実態が世の中に認められれば、われわれの主張も受け入れられやすくなるのではないか、そう思う。

また、今回、論点となった多重債務者問題を冷静に振り返るならば、われわれ業者側にも至らない点があったことは否定できない。個社ごとでは、返済に困られたお客さまに、返済期日の延長や、月々の返済額のご相談、利息・元本減免の示談を提示するなど、お客さまの事情に合わせた返済相談を行っていた。しかし、返済のために他社から借金を重ねる自転車操業的な借り入れをしているお客に対して、カウンセリング機関の設置や金銭教育・啓発など、その救済・防止に向けた業界としての横断的な取り組みへの努力が、まだまだ十分ではなかったと反省するところだ。

軽んじられた経済原則

しかしながら、今回の法改正で定められた「金利規制」「総量規制」についてあえて申し上げるならば、われわれが一番懸念していることは、これまで借りられていたのに借りられなくなってしまうお客を相当数生んでしまうということだ。

結局金利はお客の信用リスクに応じて決まるものだから、金利を下げるということは、与信基準を厳格化せざるを得ず、これまでの29 ,2%までの金利ならご融資できたけれども20%ではご融資できないというお客さまを生むことになる。つまり今後は借りたくても借りることのできないお客が増えることを意味する。すでにその傾向は申込みの成約率に現れ始めていて、06年には50%近かったのに、07年3月の時点では約35%へと顕著に減少傾向を示している。

そもそも金利というものは、本来は市場の需給バランスで決められるべきもの。それが経済の原則だ。そうした経済原則がこの貸金業市場においては、あまりにも軽んじられてしまったことを非常に残念に思う。

同様なことが「総量規制」にもいえる。同じ年収であっても、家族構成、ライフスタイルなどで可処分所得は人によって異なる。それを一律年収の3分の1以上借りてはいけないと規制してしまうということは、今後は十分に返済能力のある人であっても、借りたいときに借りられない状況が生じることになる。

問題はこうして借りられなくなってしまったお客が、必要に迫られたときどういう行動をとられるかということだ。お金を借りることを思いとどまれる状況であればよいのだが、もっとも懸念されるのが、どうしてもお金が必要だからと安易に借りやすいヤミ金融に行ってしまうこと。こうした問題をはらんでいることをわれわれは憂慮している。

消費者に必要とされている金融

このまま新法が施行されることになると、経営環境が厳しくなり、今後、多くの貸金業者が営業の継続を断念せざるを得なくなるというのが実情だ。実際に、金融庁から発表された2008年1月の貸金業者数は、半年前と比べると、12 ・9%減。1980年代後半の5万社弱と比べると、5分の1に激減していることが示されている。つまり、貸金業市場は確実に縮小に向かっているといっていいだろう。しかも、現在経営を継続している業者であっても、この厳しい環境下では企業体質を変更せざるを得ない。今までの高度成長期とは状況は異なるから、新たなビジネスモデルを再構築していかなければ、たとえ大手であっても存続は難しい状況だ。今後はコスト構造改革、M&A、さらには市場拡大を呪んだ海外進出など、各社生き残りをかけた経営改革を余儀なくされることになるだろう。

しかしながら、われわれ消費者金融がここまで成長できたのも、実際に必要とされているお客の需要があったからこそ。そのお客の不利益になることのないよう、さらにサービスの向上に努めていかなければならない。この窮地に立たされた今、見方を変えれば、われわれは何をなすべきなのか、どう変わるべきなのか、それを考え、実行する良い機会であるともいえる。

どのような厳しい状況下であれ、われわれのよりどころは、「日本の社会のなかで消費者金融は必要とされている」ということだ。消費者の方々の支えがある以上、消費者金融業界は生き残れる、そう私は確信している。